岡山県立大学保健福祉学部現代福祉学科 中村光研究室

科研費研究成果

2023年度-2026年度

科学研究費基盤研究(C):語用論的コミュニケーションの老化と障害に関する横断的および縦断的研究(課題番号23K09604)

2019年度-2022年度

科学研究費基盤研究(C):脳疾患に伴う語用論的コミュニケーション障害の認知的・社会的側面に関する総合的研究(課題番号19K10489)

語用論的コミュニケーション障害とその評価(総説)

【発表誌】
中村光:コミュニケーションと認知機能-障害と評価-.日本老年療法学会誌, 1, 1-7, 2022.https://doi.org/10.57270/jgts.2022_011
【研究の概要】
 コミュニケーションとは「意味の共有」と定義される。一方が共有を望んで頭の中の意味を記号化しメッセージとして発信し、他方がそれを受信して記号を解読し頭の中に同じ意味が生じれば、コミュニケーションが成立したことになる。また、コミュニケーションの場には必ずコンテキストがあり、同じメッセージであってもコンテキストによって意味は異なってくる。
 コミュニケーションの問題を引き起こす障害は、大きく4つに類別できる。①記号の入出力の問題、②記号の操作の問題、③意味の問題、④コンテキストの利用の問題である。主に④を示すものとして、近年では認知コミュニケーション障害:CCD)という概念が提唱されている。CCDとは、注意・記憶・遂行機能などの認知機能障害を背景にしたコミュニケーション障害で、大脳右半球損傷、前頭葉損傷、瀰漫性損傷によって生じることがある。欧米におけるCCDの評価尺度をレビューした。全般的には開発の途上にあるといえる。

失語症における呼称課題条件と言語性保続

【発表誌】
 玉置円,中村光:失語症者における呼称課題条件と言語性保続の発生.音声言語医学,61(3), 230-236, 2020.
【研究の概要】
 研究1では、失語症者22名に対し、刺激項目(絵カード)の意味カテゴリー(動物/道具)、色情報の有無(白黒/カラー)、提示間隔(1秒/10秒)を操作した呼称課題を実施した。その結果、保続の出現数に対しカテゴリー、およびカテゴリーと提示間隔の組み合わせが関連する可能性が示された。研究2では、失語症者28名に対し、色情報の要因は除くとともに、提示間隔に20秒条件を加え、刺激提示方法をより厳密に操作した呼称課題を実施した。その結果、動物カテゴリーにおける保続は道具カテゴリーよりも高頻度で減衰しにくいことが確認された。保続が多く出現する患者には、非生物カテゴリーを中心とした訓練プログラムを立案することで、保続を抑制して言語機能訓練が提供できる可能性が示唆された。

2015年度-2018年度

科学研究費基盤研究(C):脳疾患に伴う語用論的コミュニケーションの問題への評価と介入に関する包括的研究(課題番号15K08562)

軽微アルツハイマー病における比喩理解障害

【発表誌】
Fujimoto N, Nakamura H, Tsuda T, Wakutani Y, Takao T: Impaired comprehension of metaphorical expressions in very mild Alzheimer's disease. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 15, 713-720, 2019.
【研究の概要】
藤本と中村ら(2016)の比喩理解課題およびトークンテストを、軽度(MMSE=17-23点)および軽微(同>23点)のアルツハイマー病患者各20名(軽度AD群、軽微AD群)に実施し、その成績を性・年齢をマッチさせた健常高齢者20名(健常群)と比較した。その結果、比喩理解課題の得点は、健常群>軽微AD群>軽度AD群の順に低下した。一方トークンテストの得点は、健常群>軽度AD群であったが、健常群と軽微AD群の間では差はなかった。比喩理解課題における誤反応分析では、軽度AD群の誤反応分布は他の2群と異なり、正答から「遠い」誤りが多かった。AD患者は字義通り文よりも比喩文において理解障害を示しやすく、ADの進行において語用論的言語障害は形式的言語障害に先立つものと考えた。

  Normal
controls
Very
mild AD
Mild AD
Simile Comprehension Test 87.5±9.1 76.3±10.0 54.8±14.9
Token Test 98.9±1.0 96.7±1.8 94.3±5.1

Values are percentages of correct responses (mean ± standard deviations)

アルツハイマー病における比喩理解障害

【発表誌】

藤本憲正,中村光,涌谷陽介,津田哲也,京林由季子:アルツハイマー病における比喩理解の障害.高次脳機能研究,37(2), 205-211, 2017.

【研究の概要】

藤本と中村ら(2016)の比喩理解課題およびトークンテストを、軽度から中等度のアルツハイマー病者20名(AD群)に実施し、その成績を健常高齢者20名(高齢群)および失語症者15名(失語群)と比較した。さらに、AD群の比喩理解課題得点とMMSEおよびFAB得点との相関関係を分析した。その結果、AD群の比喩理解課題得点は高齢群より有意に低かったが失語群とは同等で、トークンテスト得点は高齢群より有意に低く失語群よりは有意に高かった。AD群の比喩理解課題得点は、MMSEの総点と有意な相関関係を示し、下位項目・領域別ではMMSEの「注意と計算」領域と「書字」項目得点、FABの「類似性」「語の流暢性」項目得点と関連した。アルツハイマー病の比喩理解障害の性質は失語とは異なり、遂行機能および意味記憶の障害が関わる可能性が示唆された。

語用論的コミュニケーションの検査式評価法としての比喩理解課題

【発表誌】

藤本憲正,中村光,福永真哉,京林由季子:脳損傷者における比喩理解-右半球損傷者における障害を中心に-.音声言語医学,57(2), 201-207, 2016.

【研究の概要】

比喩文の理解課題を作成し、健常高齢者(統制群)、コミュニケーション障害を認めない右半球損傷者(右なし群)、それを認める右半球損傷者(右あり群)、左半球損傷の失語症者(失語群)、それぞれ15名に実施した。比喩文は一般的になじみの低い直喩文30題で(例:道は、血管のようだ)、検者がそれを読み上げた後、その意味に最もあう文を4つの選択肢から選ぶよう求めた。さらに同じ比喩の口頭説明課題とトークンテスト(TT)を実施した。結果は、統制群と比較し、右なし群では比喩理解課題、TTともに同等の得点であり、右あり群では特に比喩理解課題で有意な低下を示し、失語群では比喩理解課題、TTともに有意な低下を示した。比喩理解課題と比喩説明課題の得点には有意な相関関係が認められた。unfamiliarまたはnovelな比喩の理解課題は、語用論的コミュニケーション障害の評価に有用だと考えた。

2012年度-2014年度

科学研究費基盤研究(C):脳疾患に伴うコミュニケーション障害に対する定量的評価法の開発に関する研究(課題番号24590628)

失語症における言語流暢性課題成績とその時間推移

【発表誌】

李多晛,中村光,伊澤幸洋:失語症者における言語流暢性課題の成績-品詞の影響と時間推移の分析.音声言語医学,56(4), 335-341, 2015.

【研究の概要】

制限時間それぞれ60秒以内に、普通名詞(動物、野菜)、固有名詞(会社名、有名人名)、動詞(人がすること)の単語表出を求める言語流暢性課題を、失語症者32名に実施し、李ら(2013)の健常若年群・健常高齢群の成績と比較した。その結果、失語群の正反応数は健常の2群に比べて有意に少なく、品詞別では、健常の2群と同様に普通名詞に比べ固有名詞と動詞で有意に少なかった。普通名詞課題の正反応数とSLTA「呼称」の正答数との相関関係は中等度で、動詞課題とSLTA「動作説明」との関連は認められず、失語の評価において言語流暢性課題を命名課題で代用することは出来ないと考えた。また、正反応数を15秒ごとの4区間で分けると、特に動物課題と野菜課題において、健常の2群では概ね一貫して数が減少したのに対し、失語群では第2区間から第4区間における数の減少は明らかでなかった。失語症者では語彙の回収に時間がかかるための現象と考えた。

語用論的コミュニケーションの観察式評価尺度

【発表誌】

藤本憲正,中村光,伊澤幸洋,津田哲也,栗林一樹:語用論的コミュニケーション評価尺度の開発:日本語版Pragmatic Rating Scaleの信頼性.コミュニケーション障害学,32(1),11-19,2015.

【研究の概要】

可能な限り多くの欧米における語用論的コミュニケーション評価尺度を吟味した。そしてMacLennanら(2002)のPragmatic Rating Scale(PRS)を選定し,翻訳と逆翻訳を経て日本語版(試案)を作成した。これは、「明瞭さ」「流暢さ」「プロソディ」「顔の表情」「アイコンタクト」「ジェスチャー」「話題の維持」「エラボレーション」「結束性」「話題の開始」「冗長さ」「話題の管理」「話者交替(反応のすばやさ)」「話者交替(妨害)」「フィードバック」「修復」の16項目について、それぞれ適度な水準であるかを5件法で評点するものである。
 次に,信頼性の検証のため,脳損傷による語用論的コミュニケーション障害ありと判断された24例のコミュニケーション行動を録画したVTRを作成し,言語聴覚士3名に,それを再生しながら上記尺度を用いて評定するよう求めた。その結果,原版と同様の方法で算出した評定者間信頼性の値は原版と同等で,weighted κ係数による全項目平均は評定者間0.66,評定者内0.83と十分に高かった。日本語版PRSは臨床で有用なものと考えた。 日本語版PRSはこちら

動詞の言語流暢性課題

【発表誌】

李多晛,澤田陽一,中村光,徳地亮,藤本憲正:言語流暢性課題における品詞と加齢の影響.高次脳機能研究,33(4),421-427,2013.


【研究の概要】

対象は健常の若年者と高齢者、それぞれ35名。被検者には、60秒間に以下の範疇に属する単語をできるだけ多く表出するよう求めた。(1)普通名詞:「動物」「野菜」、(2)固有名詞:「会社の名前」「有名人の名前」、(3)動詞:「人がすること」。その結果、高齢群は若年群に比べて、正反応数が有意に少なく、誤反応数が有意に多かった。動詞は普通名詞に比べて、正反応数が有意に少なかった。また、普通名詞、固有名詞に比べ動詞では、加齢による正反応数の減少と誤反応数の増加が有意であった。動詞において加齢による成績低下が強くみられたのは、高齢者における遂行機能の低下を反映したものだと考えた。

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